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鹿児島家庭裁判所 平成4年(少)10049号 決定

少年 K・T(昭和49.12、1生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一  1 平成4年1月18日午前1時51分ごろ、鹿児島市○○町×番×号先道路において、同所交差点に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで、普通乗用自動車(登録番号・鹿児島××○××××号)を運転して通行した、

2 同日午前1時52分ごろ、同市○○×丁目○番○号先道路において、同所交差点に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで、前記車両を運転して通行した、

3 同日午前1時53分ごろ、同市○○×丁目×番×号先道路において、同所交差点に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで、前記車両を運転して通行した、

第二  公安委員会の運転免許を受けないで、同日午前1時54分ごろ、同市○○×丁目××番××号先道路において、前記車両を運転した、

第三  当庁において、同3年1月11日保護観察に付されたものであるが、同年9月18日午後9時ころから家出し、今までに原動機付自転車盗、その無免許運転をしているのに、保護観察後においても、知り合いの普通乗用自動車を無断で無免許運転し、さらに家出中の間、4代目小桜一家内2代目鶴勝組の暴力団員で、鹿児島市○○町××番××号コーポ○○×××号所在のA方に寄宿し、同人及びその仲間とともに無為徒食の生活を送っていたものであって、この間家庭に帰らず、保護観察官の度重なる指導及び母親の説得にもかかわらず、前記場所でA(なお、同人に対して鹿児島地方裁判所において、同4年1月28日恐喝、道路交通法違反(無免許運転)、業務上過失傷害罪で懲役1年6月、3年間の保護観察付執行猶予の判決の言渡しがなされている。)と一緒にいたいなどと言って正当な理由もなく自宅に帰ろうとはせず、犯罪性のある人と交際し、このまま放置するとその生活状況、性格及び環境等に照らして、将来、道路交通法違反、窃盗等の罪を犯すおそれがある

ものである。

(法令の適用)

第一の1ないし3の事実につき 道路交通法119条1項1号の2、7条、4条1項、同法施行令2条1項

第二の事実につき 道路交通法118条1項1号、64条

第三の事実につき 少年法3条1項3号イ、ロ、ハ前段

(処遇理由)

少年は、中学1年生のころから万引き等の非行が見られ、単車の無免許運転や窃盗をなし、前件の窃盗保護事件で前記のとおり平成3年1月11日保護観察に付されたものである。その後、就職したものの、2ヶ月後には保護司に無断で県外に転居し、その後帰鹿したものの、以前と同様の夜間外出、シンナー吸引などの問題行動が見られ、仕事も長続きしない状態であった。また、同年9月18日には家出し、それ以後保護観察所及び保護者の再三の指導にもかかわらず、家に帰ろうとせず、暴力団員の居所で生活し、むしろ積極的に不良仲間との付き合いに溺れ、昼夜逆転の生活を続け、無為徒食の生活を送るありさまであった。このような状況下で、少年は、退屈しのぎに知り合いの普通乗用自動車を無断で持ち出し、同4年1月18日無免許運転をなし、パトカーに追われるや警察官の再三の停止命令を無視して信号無視を繰り返しながら逃走したことで逮捕されることとなった(本件非行事実)。さらに、少年は、規範意識が乏しく、自己統制力に欠け、集団の影響を受けやすく、このままの状態では健全な社会適応ができずに再非行に走ることが考えられる上、前述のように保護者の指示に従おうとせず、家庭の保護領域から完全に離脱し、家庭での監護が期待できない状態にある。

このような少年の非行内容、少年の性格、保護環境、特に保護観察中の少年の行状等を勘案すると、少年の要保護性は大きく、少年が少しずつではあるが自己の非行を見つめ直す面を見せ始めるなどの諸事情を考慮しても、もはや在宅保護による少年の矯正は期待できないから、少年を中等少年院に送致することとし、この際少年を相当期間施設に収容した上で、規律正しい生活を通じて忍耐力や持続力を身に付けさせ、健全な勤労精神を涵養し、生活態度の改善等を図ることが相当である。

なお、平成4年少第90号虞犯保護事件は、前記道路交通法違反保護事件が当庁に係属後、鹿児島保護観察所長から当庁に対し、保護観察に付された以後の少年の行状について、犯罪者予防更生法42条1項による虞犯通告がなされたものであり、通告理由の一部に当庁に係属している道路交通法違反事実が含まれているところ、このような場合、少年の虞犯性が犯罪事実である前記道路交通法違反に現実化したものとして、犯罪事実についてだけ認定し、虞犯事実を要保護性の面で考慮すれば足りると考える余地もあるが、本件関係証拠によれば、少年の虞犯性は、その生活態度、行動傾向、性格、環境等から、犯罪事実として現実化している道路交通法違反の点にとどまらず、窃盗等の他の犯罪についても認められるものであるから、虞犯事件が前記道路交通法違反事件に全部吸収されると考えるのは妥当ではなく、これを別個に審判の対象として、全事件を併合して審理し、前記のとおり認定した上、その処遇を決定するのが相当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 一木泰造)

通告書

鹿保観発第××号

通告書

平成4年1月27日

鹿児島家庭裁判所 殿

鹿児島保護観察所長 ○○○○

下記の者は、少年法第24条第1項第1号の保護処分により、当保護観察所において保護観察中のところ、新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので、犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。

氏名

年齢

K・T

昭和49年12月1日生

本籍

鹿児島県大島郡○○町大字○○××番地

住居

鹿児島市○○×丁目××─× 市営住宅××号

保護者

氏名

年齢

K・Y・子

昭和29年2月1日生

住居

鹿児島市○○×丁目××─×市営住宅××号

本人の職業

無職

保護者の職業

事務員

決定裁判所

鹿児島家庭裁判所

決定の日

平成3年1月11日

保護観察の経過及び成績の推移

別紙1のとおり

通告の理由

別紙2のとおり

必要とする保護処分及びその期間

少年院送致

参考事項

添付書類

(1)質問調書(甲) 1通

(2)協力当依頼書(Aに係る分)写し 1通

別紙1

保護観察の経過及び成績の推移(氏名 K・T)

本人は、

1 平成3年1月11日鹿児島家庭裁判所において窃盗保護事件で保護観察に付され、同日母親同伴のうえ当庁に出頭したので、係官が面接し、遵守事項を誓約させ、保護観察の趣旨を説明し、保護観察中の心得等を説示した。

2 同年3月22日「○○鉱業]の出張作業のため大阪府茨木市へ無断転居。同月26日大阪保護観察所あて居住確認照会。

3 同年4月22日大阪保護観察所から移送相当意見の居住確認回答受理。同日大阪保護観察所へ事件移送。

4 同年6月23日担当者が本人勤務先へ往電したところ、本人は1ヶ月くらい前に親元に帰宅したことが判明したので、直ちに親元へ往電したところ本人が電話に出て現在鹿児島市の「○○鉱業」に勤務していると回答。同月28日鹿児島保護観察所あて居住確認照会。

5 同年7月23日本人が鹿児島保護観察所に出頭したので、主任官面接し、同日移送相当意見の居住確認回答。

6 同年8月7日大阪保護観察所から事件移送受理。同月20日主任官面接、あいかわらず夜間外出及びシンナー吸引は続いていると回答。

7 同年9月3日旅行許可申出のため出頭、主任官面接。○○鉄筋は先週で辞め、来週から父親の親戚が経営している「ボーリング工事」に稼動する、工事現場は鹿児島県出水郡○○町○○であると述。日程・宿泊先等詳しいことは全く分かっていなかったので、「旅行許可申出書」を交付し、翌日連絡するよう指示。

8 同月18日当庁で開催された「シンナー講習会」に出席し、帰宅したものの、午後9時ころ友達のところへ行くと言って外出したまま帰宅せず、所在不明となる。

9 同年10月11日現在2号観察中の「B」がいるという鹿児島市○○町××-××コーポ○○××号「A」の許へ電話をしたところ、本人が電話に出たので同月14日「B」と同伴の出頭を指示。同月14日「B」と同伴出頭、主任官面接。帰宅するよう指示。同月18日担当者から来電、本人は帰宅していないと報告。

10 同年12月出頭指示を受けていた「B」と同伴して出頭、主任官面接。家に帰り、落ち着いた生活を送るよう指導。

11 同月17日当庁で開催された「シンナー講習会」に「B」に同伴して参加、主任官面接。早急に就労の開拓に努めること、母親とよく話し合うことを指導。同日担当者に対し、本人に自分が家に居てはとの思いが感じられるので、「A」の所へ母親が迎えに行き、本人を連れて帰るようにして欲しい旨依頼。

12 平成4年1月4日母親出頭、主任官面接。平成3年12月23日本人が泊まっている「A」の所へ行った。本人と会えたので、祖父が病気であること、1月22日に祖父の許に行くことを伝え、一緒に帰るよう言ったが、その内帰って来るからと答え、一緒に帰ろうとしなかった。それで、K・Tが世話になったお礼と早く帰してくれるよう書いた手紙を本人に言づけて帰ってきたと報告。

13 同月13日、14日午後1時を指定して出頭するよう電話で指示。同月14日本人「B」と同伴出頭、主任官面接。家には全く寄りつかず、家には帰るつもりはないと述べたので、鹿児島家庭裁判所あて通告を考慮し、質問調書を作成。同月16日鹿児島県警察本部捜査第二課長あて「A」の状況について報告依頼。

14 同月18日担当者から電話で、今朝7時に母親から電話があり、本人が午前2時ころ鹿児島市○○町で無免許運転をし逮捕されたとの連絡が入ったと報告。同日鹿児島中央警察署あて電話し、事実を確認。

15 同月21日鹿児島県警察本部捜査第二課長から回答書受理。同月22日鹿児島少年鑑別所から「保護観察中の者の収容通知書」受理。同月23日鹿児島家庭裁判所から「保護観察状況報告請求書」受理。

別紙2

通告の理由(氏名 K・T)

本人は、平成3年1月11日鹿児島家庭裁判所において保護観察処分を受け、現在鹿児島保護観察所の保護観察下にあるものであるが、保護観察の経過及び質問調書等関係記録から明らかなとおり

1 平成3年9月18日午後9時ころ家を出たまま、定職に就かず無為徒食し、観察官の度重なる指導及び母親の説得にもかかわらず、自宅に帰ろうとはせず、

(少年法第3条第1項第3号イ及び同条同項同号ロ該当)

2 家出中の間、鹿児島県警察本部において4代目小桜一家内2代目鶴勝組々員として視察中の「A」の許に寄宿し、

(少年法第3条第1項第3号ハ前段該当)

3 平成4年1月18日午前1時51分ころ、鹿児島市○○町×番×号先道路において、同所に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで、普通乗用自動車を運転し、同日午前1時52分ころ、鹿児島市○○×丁目×番×号先道路において、同所に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで、前記車両を運転して通行し、同日午前1時53分ころ、鹿児島市○○×丁目×番×号先道路において、同所に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで前記車両を運転して通行し、公安委員会の運転免許を受けないで、同日午前1時54分ころ、鹿児島市○○×丁目××番××号先道路において前記車両を運転した。

(少年法第3条第1項第1号該当)

以上のとおりの事実が認められ、その性格及び環境に照らして、近い将来、刑罰法令に触れる行為をする虞があるので、通告する。

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